高村光太郎の詩「牛」から学ぶ、周囲に振り回されず自分らしく生きる道

牛ハノロノロト歩ク 

牛ハ野デモ山デモ道デモ川デモ

自分ノ行キタイトコロへハ

マッスグニ行ク

「牛」より一部抜粋 高村光太郎

「牛ハノロノロト歩ク」から始まるこの詩は、一歩一歩あゆみは遅くとも、着実に前に進んでゆく牛の姿に、自分自身の生き方の理想を重ねた高村光太郎(1883〜1956 日本の彫刻家・画家・詩人)の作品です。

「牛」という詩は115行におよぶ、ゆったりと力強く、正に牛が歩んでいるような詩です。素朴でいて、優しさとたくましさのある一語一語からは高村光太郎の人柄を感じることができます。

自然体で卓越した達人のような牛。そんな「牛」の部分を自分自身に置き換えてみると、周囲に振り回されることなく、自分らしく生きていくためのヒントにもなるのではないでしょうか。

「牛」 高村光太郎

牛ハノロノロト歩ク

牛ハ野デモ山デモ道デモ川デモ

自分ノ行キタイトコロヘハ

マッスグニ行ク

牛ハタダデハ飛バナイ、タダデハ躍ラナイ

ガチリ、ガチリト

牛ハ砂ヲ掘リ土ヲ掘リ石ヲハネトバシ

ヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

牛ハ急グ事ヲシナイ

牛ハ力(チカラ)一パイニ地面ヲ頼ツテ行ク

自分ヲ載セテイル自然ノ力(チカラ)ヲ信ジキツテ行ク

ヒト足、ヒト足、牛ハ自分ノ道ヲ味ハツテ行ク

フミ出ス足ハ必然ダ

ウハノ空ノ事デハナイ

是デモ非デモ

出サナイデハイラレナイ足ヲ出ス

牛ダ

出シタガ最後

牛ハ後ヘハカヘラナイ

足ガ地面へメリ込ンデモカヘラナイ

ソシテヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

牛ハガムシヤラデハナイ

ケレドモカナリガムシヤラダ

邪魔ナモノハ二本ノ角ニヒツカケル

牛ハ非道ヲシナイ

牛ハタダ為(シ)タイ事ヲスル

自然ニ為(シ)タクナル事ヲスル

牛ハ判断ヲシナイ

ケレドモ牛ハ正直ダ

牛ハ為(シ)タクナツテ為(シ)タ事ニ後悔ヲシナイ

牛ノ為(シ)タ事ハ牛ノ自信ヲ強クスル

ソレデモヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

何処マデモ歩ク

自然ヲ信ジ切ツテ

自然ニ身ヲ任シテ

ガチリ、ガチリト自然ニツツ込ミ喰ヒ込ンデ

遅レテモ、先ニナツテモ

自分ノ道ヲ自分デ行ク

雲ニモノラナイ

雨ヲモ呼バナイ

水ノ上ヲモ泳ガナイ

堅ヒ大地ニ蹄(ヒヅメ)ヲツケテ

牛ハ平凡ナ大地ヲ行ク

ヤクザナ架空ノ地面ニダマサレナイ

ヒトヲウラヤマシイトモ思ハナイ

牛ハ自分ノ孤独ヲチヤント知ツテイル

牛ハ食ベタモノヲ又食ベナガラ

ジツト淋シサヲフンゴタへ

サラニ深ク、サラニ大キイ孤独ノ中ニハイツテ行ク

牛ハモウト啼イテ

ソノ時自然ニヨビカケル

自然ハヤツパリモウトコタヘル

牛ハソレニアヤサレル

ソシテヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

牛ハ馬鹿ニ大マカデ、カナリ無器用ダ

思ヒ立ツテモヤルマデガ大変ダ

ヤリハジメテモキビキビトハ行カナイ

ケレドモ牛ハ馬鹿ニ敏感ダ

三里サキノケダモノノ声ヲキキワケル

最善最美ヲ直覚スル

未来ヲ明ラカニ予感スル

見ヨ

牛ノ眼ハ叡智ニカガヤク

ソノ眼ハ自然ノ形ト魂トヲ一緒ニ見ヌク

形ノオモチヤヲ喜バナイ

魂ノ影ニ魅セラレナイ

ウルホヒノアルヤサシイ牛ノ眼

マツ毛ノ長イ黒眼ガチノ牛ノ眼

永遠ヲ日常ニヨビ生カス牛ノ眼

牛ノ眼ハ聖者ノ眼ダ

牛ハ自然ヲソノ通リニジツト見ル

見ツメル

キヨロキヨロトキヨロツカナイ

眼ニ角モ立テナイ

牛ガ自然ヲ見ル事ハ牛ガ自分ヲ見ル事ダ

外ヲ見ルト一緒ニ内ガ見エ

内ヲ見ルト一緒ニ外ガ見エル

コレハ牛ニトツテノ努力ジヤナイ

牛ニトツテノ当然ダ

ソシテヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

牛ハ随分強情ダ

ケレドモムヤミトハ争ハナイ

争ハナケレバナラナイ時シカ争ハナイ

フダンハスベテヲタダ聞イテイル

ソシテ自分ノ仕事ヲシテイル

生命ヲクダイテ力(チカラ)ヲ出ス

牛ノ力(チカラ)ハ強イ

シカシ牛ノ力(チカラ)ハ潜力(センリョク)

弾機(バネ)デハナイ

ネジダ

坂ニ車ヲ引キ上ゲルネジノ力(チカラ)

牛ガ邪魔者ヲツツカケテハネトバス時ハ

キレ離レノイイ手際ダガ

牛ノ力(チカラ)ハネバリツコイ

邪悪ナ闘牛者(トレアドル)ノ卑劣ナ刃(ヤイバ)ニカカル時デモ

十本二十本ノ槍ヲ総身ニ立テラレテ

ヨロケナガラモツツカケル

ツツカケル

牛ノ力(チカラ)ハカウモ悲壮ダ

牛ノ力(チカラ)ハカウモ偉大ダ

ソレデモヤツパリ牛ハノロノロト歩ク

何処マデモ歩ク

歩キナガラ草ヲ食フ

大地カラ生エテイル草ヲ食フ

ソシテ大キナ体ヲ肥ス

利口デヤサシイ眼ト

ナツコイ舌ト

カタイ爪ト

厳粛ナ二本ノ角ト

愛情ニ満チタ啼声(ナキゴエ)

スバラシイ筋肉ト

正直ナ涎(ヨダレ)ヲ持ツタ大キナ牛

牛ハノロノロト歩ク

牛ハ大地ヲフミシメテ歩ク

牛ハ平凡ナ大地ヲ歩ク

(1913.12 高村光太郎作 「牛」 「高村光太郎詩集」および「道程」掲載より)

最後に

今から25年ほど前、大学生の頃に私は「牛」という詩に出会い、そして、すぐに「牛」という詩を大好きになりました。

なぜなら当時の私は、夢いっぱいの大学生で「この牛のように粘り強く、一歩一歩、自分が決めた道を歩んでいきたい」と単純に感動したからです

叶った夢も叶っていない夢も両方ありますが、あれから少し年齢を重ね、この詩から見える景色も変わってきました。昔は分からなかった「平凡な大地」の大切さに気づくようにもなりました。

まだまだ人生という旅の途中、これからも平凡という偉大な大地の上で、「牛」のようにがちり、がちりと周囲に気をとられず、自分のペースで夢に向かって歩んで行きたいと思います。